味の引き立て役 醤油
餅や煎餅から醤油が少し焦げた、あの何ともいえない香りがすると食欲をそそります。海外では日本食ブームによって、醤油のすばらしさが世界的にも知られるようになりました。日本人の食生活にとって欠くことのできない調味料である醤油をもう一度見直してみましょう。
醤油の製造方法
醤油は、大豆と小麦を混ぜ、麹菌をつけて麹をつくります。
それを塩水に漬けて発酵させてもろみをつくり、そのもろみを超時間(二夏)熟成させて搾ったものです。味噌でも醤油でも、仕込んで一年経ったものは香りよしといい、二年経つと味よし、三年でコクが出てくるといいます。普通はこれをミックスしてメーカー独自の味を出します。
それぞれの蔵や樽に住みついている「蔵酵母」によって味が微妙に違います。また、仕込む季節によっても菌が微妙に変化するので、醤油はまさに生き物といえます。酵母菌には酸素が必要で、桶の中のもろみの内部まで酸素を送ってやらないと酵母が死んでしまいます。昔ながらのカイでゆっくり撹拌して、もろみに酸素を送ってやる作業が大変な重労働なのです。冬場で週1回、夏場では2~3日に1回行わなければなりません。
本当の醤油は大変手間ひまかかる食品です。原料の穀物の生命力(山のもの)と生命の生みの親・塩(海のもの)に酵母菌という自然の微生物を仲人役として、職人さんが丹精こめてつくりあげた、まさに命の結晶といえます。
よい醤油の見分け方
よい醤油の決め手は大豆と小麦です。大豆が養湯の旨味を出し、小麦は香りの源となるといいます。
よく熟成された醤油は、香気が高く、しっとりとした自然な甘みがあります。また、よい醤油にはある程度の粘り気があります。お皿に醤油を少し入れて傾けてみて、サッと流れないほうがよいとします。ビンに入った醤油を振ってみて細かい泡がたくさんでき、それがなかなか消えないものは有機酸が多く、上質と判断します。
さら にコップに水を入れ、醤油を数滴たらしてみて、水面でパーッとすぐ散っていくようなら、あまりよい醤油ではありません(熟成がたりないか、化学物質が含ま れていて陰性と判断する)。ポタポタと落としてみて、水面であまり広がらずに沈んで行きながら底のほうでゆっくり散っていくようなら、よい醤油(熟成した 陽性な醤油)といえます。
醤油の薬効
醤油のうまみ成分はグルタミン酸を主体としたアミノ酸です。よく熟成させて、香りや旨みが出ているものほどアミノ酸が多く含まれています。
アミノ酸には病原菌に対する強い殺菌力があることが、東大医学部の細菌学教室の実験で確認されています。刺身に醤油を使うのは生ものへの殺菌効果があることを、昔の人は生活の知恵として知っていたのでしょう。
また、アミノ酸には消化を助ける補酵素としての働きもあります。分解しにくいたんぱく質の多い肉や魚を醤油で味付けするのは、醤油のアミノ酸が体内で食べ物を分解・吸収する手助けをしてくれるからです。食欲がないときにも、醤油が薬となります。
東北など寒い地方では、雪道を歩く前に盃一杯の醤油(天然醸造)を飲んでから出かけたと聞きます。醤油は強心剤として働くため、醤油を飲むと血行がよくな り、体が温まるので凍傷にかかりにくくなるからです。また、血行がよくなると新陳代謝が高まるため、皮膚が丈夫になり、疲れも取れます。冷え症の人には梅醤番茶がおすすめです。
いい「塩梅」をつくり出す醤油
醤油のいちばんの持ち味は、食材のもつ味を引き立たせ、食欲を増進する調味料としての働きです。魚の塩焼きに醤油を少したらすと、臭みが和らぎます。これは、醤油に含まれる乳酸と香り成分が魚肉の臭みを和らげるからです。
また、昆布や椎茸、かつおのダシに醤油を加えるとダシの旨みをよりいっそう引き出すことができます。これらの作用は、大豆と小麦が発酵してできる20種類の アミノ酸とビタミンB群、ミネラル、糖分などの数々の成分が複雑に絡み合って醸し出すのです。塩味の強い漬物や梅干し、焼き魚に少量の醤油を加えると、醤 油に含まれている乳酸やその他の有機酸の働きで塩味が和らぎ、風味がよくなります。
そのほか、チャーハンやソテーの隠し味に使うと、よりおいしくなります。濃口醤油は香りが強く、生臭いにおいを消してくれます。薄口醤油は色が薄いため、煮物など野菜の色や香りを大切にしたい料理に使います。白身魚を煮つけるときや大豆を軟らかく煮上げるときには薄口醤油が向きます。
好みで使い分けるとよいと思います。
夏バテぎみのこの時期、日本人の知恵から生まれた発酵食品・醤油を活用してください。